30歳で世に放たれたら知らないことがたくさんあった。
大場美奈の言い訳連載『だってアイドルだったから』。

17歳でＡＫＢ48９期生オーディションに合格してから30歳までアイドル人生をまっとうした大場美奈。卒業してみたら毎日が知らないことで溢れていた！　アイドルに没頭しすぎたからか、はたまた生活力の問題か？　大場美奈の発見を綴るコラム。

 

 

第2回 東京から来た本物の女優

 

アイドルだったから許されると思ってた。

私は東京から来た一流芸能人じゃない。

今、福岡で舞台「こりゃもてんばい3」の稽古中。
キャパは100くらいの小劇場で
出演者はほとんどが九州で活動する人たち。

Aチーム、Bチームの2チーム制で
ざっと30人くらいのカンパニーだ。

いくつか別々の演目があるが、
基本的には同じ演目。
同じでもAとBで演者が違うから味が違って面白い。

今回、原案・脚本の斉藤優さん(パラシュート部隊)に直談判して出演が決定した。
優さんが「こりゃもてんばい」の脚本を書き始めた時に話を聞き、すごく興味を持ったのだ。
普段からモテないエピソードをよく聞いていたのもあって
それが舞台化となったら面白いに違いないと思い「こりゃもてんばい2」を観に行った。

脚本のとことんリアルな感じが新鮮だった。
出演者の人たちのクセの強さや真っ直ぐなお芝居に好感を抱き、
観客のほとんどのおじさんたちが肩を揺らして笑っているのを見て
この舞台に出たい！と強く思ったのだ。

出演が決まった時に優さんから
「大場ちゃんが出てくれることでみんなの気が引き締まるよ、東京から本物の女優がくるからねってみんなにも伝えるわ」
と言われた。

めちゃくちゃ有難い。優さんにそう思ってもらえてめちゃくちゃ嬉しい。
その反面、マジでやめてくれと思った。

「本物の女優」という響きに一瞬気持ち良くなったのは嘘ではない。
こんなこと言われて嬉しくない奴はいないから。

だがこの言葉をそのまま受け取ってしまったら終わりだ。
”まぁ私って女優だし、明治座も立ったことあるし。すごいっしょ？”と言ってるようなもの。
そんな奴には死んでもなりたくない。

そもそもなんなんだ、本物の女優って。
そして偽物の女優って一体誰なんだ。

一応そこは偽物じゃなくてよかったと安心。

 

稽古に初めて参加した時
プロデューサーさんも演出家さんも
「もうすいません、本当ありがとうございます。東京の舞台よりかはだいぶ緩いですがお付き合いください」
と言われた。

いや、本当やめてくれ。

私が数々の舞台、映画、ドラマに出演していて何十年もやっているベテラン女優ならまだしも・・・。

私１年目ね？
芸歴は長いが、女優としてはまだ新人。
駆け出しよ。
むしろ後輩組よ。

こういう時、本人としては結構ちゃんと否定してるはずなのに
どんなに全力で否定してもなんかそうならない感じが恥ずかしい。

なんなら舞台って集客が結構必要な要素で
長年アイドルしてたし、大場さんだし・・・って思われがち。

いやもう私ほぼ戦力外よ！？
アイドル卒業した今はもう戦闘能力予測不能よ！！
なんなら結婚したからまじで戦力０よ！！！

ただでさえそれが標準装備なのに
今回は福岡という遠征パターン。

もはやマイナスよ！！！！！

東京、名古屋で長年活動してきたから
それ以外の場所にはTop of コアな人たちしか来ない。

だがこの舞台の関係者は誰もそんなことを思っていない。

たまたまAKB48のオーディションに受かっただけの奴よ？
紆余曲折してSKE48に行って幸せにアイドル終えただけよ。

今までの頑張ってきた結果がこんな形で仇になることがあるとは思わなかった。

アイドル時代だって抜群の人気でやってきたわけではない。
毎回必死よ、ギリギリのライン頑張ってた組よ。

それが「女優」となれば、落ちるのよ。
悲しいけど落ちるのよ。

「アイドル」と「女優」は決してイコールにならない。

”大場ちゃんって総選挙８位よ！？”
これだけ聞いたらめちゃくちゃ人気のやつみたいやん。

・・・違うんよ、ファンのみんな貯金とかしてくれたのよ。
一年間お金貯めたっていう努力エピソードありきなのよ。
遠征イベントとか「来るな！！貯金して！！！」って推しメンから言われてたのよ。
もはや可哀想よ、うちのファン。
でもすごいのよ、うちのファン。

そんな弁解も恥ずかしくてできないから
こっそり勇気を出して優さんに私は伝えたよ。
「チケット戦力になれず、ごめんなさい」と。

いざチケット販売したら現実は正直だったよね。

AチームよりBチームの方が売れてるのだもの。
なんかもうアルファベットにしないでほしかったよね。
日本人のせいか、数字もアルファベットも最初にくる方が・・・みたいな感覚がさ
なかなかに強いのよ。

せめてチューリップ組とひまわり組とかにしてほしかったわ。
そしたらもう少し緩和したかもしれない。

「こりゃもてんばい」には毎回HKT48から数人参加していて
大体やっぱりお客さんはHKT48ファンの方らしい。

だから今回もHKT48から３人参加していて
私も元48だからってことで合わせて４人計算らしい。

２人ずつに分かれてるんだけど
Bはさ、HKT48ちゃん２人なのよ。
Aはさ、HKT48ちゃん１人と私なのよ。

・・・そうなるやん。
そうなったやん。

いやマジでなんかもう一人で悲しい。
無理なもんは無理って大人だからわかってるんだけどさ
最後まで諦めないで宣伝することしかできないからしようと思うよ！！！

せめてお芝居では引っ張りたいところだけど…
いま私は毎日努力してます。

経験はあってもまだまだ駆け出しの身。
みんなと共に切磋琢磨してる姿をぜひ観に来てください！

（プロフィール）
おおば みな
1992年４月３日生まれ、神奈川県出身。
2009年、９期生としてAKB48に加入。2014年、SKE48へ完全移籍。2022年５月にグループを卒業し、現在は女優・タレントとして活躍中。13年間のアイドル活動を自身の筆で赤裸々に書き下ろした『大場美奈フォトエッセイ 器用じゃないけど。』が絶賛発売中。

 

◆information
舞台『こりゃもてんばい３』大好評公演中！

第一弾・第二弾ともに全公演完売の『こりゃもてんばい』。
待望の第三弾も、原案・脚本斉藤優（パラシュート部隊）によって、さまざまなモテない男たちの物語がオムニバスで描かれる。
ただいま絶賛公演中！　公演情報はこちらから。
2023年4月25日～30日@福岡「ぽんプラザホール」