絶対必読の大場美奈新連載
『だってアイドルだったから』。
第3回目は「働くタイムスケジュール」。
ある朝目が覚めたら既に新幹線の出発時間!
どうするみなるん!

30歳で世に放たれたら知らないことがたくさんあった。
大場美奈の言い訳連載『だってアイドルだったから』。
17歳でAKB489期生オーディションに合格してから30歳までアイドル人生をまっとうした大場美奈。卒業してみたら毎日が知らないことで溢れていた! アイドルに没頭しすぎたからか、はたまた生活力の問題か? 大場美奈の発見を綴るコラム。
第3回 働くタイムスケジュール
アイドルだったから許されると思ってた。
地元の同級生と会った日のこと。
「明日からまた仕事だ~」と呟いていたので
いつも何時に会社に行くのか聞くと
「8時出社だよ」と言われた。
「大変だね」と言うと
「美奈はもっと大変でしょ?」と言われた。
この一言で働くタイムスケジュールの違いに気づいた。
私って本当に大変だったのか?
一体なにが大変だったのだろう。
友達は朝早くから満員電車に乗って会社に向かうらしい。
片道約1時間かからないくらい。
「でも電車一本で行けるからいいんだ~」と嬉しそうだった。
ちなみに私は一時期、家までロケバスが迎えにきてくれることがあった。
最悪寝坊したって、飛び起きて家の下のロケバスに乗ればギリセーフという有難い環境。
でも基本的には集合場所に行き、そこからロケバスに乗り現場まで向かうわけだ。
満員電車を経験したことがあるが、座れないとなるとかなりの地獄だった。
だがロケバスでは、誰ひとり座れないことなんてない。
みんな座ってごはんを食べたり、談笑したり、寝たり。
満員電車に比べたらロケバスは天国だ。
この時点で、私と友達のどちらが大変かといったら確実に友達な気がする。
アイドルだったから満員電車に乗らずに相当許されていたんだと思う。
名古屋で収録の時に、入り時間の1時間前に東京の家で起きたことがあった。
寝坊したのだ。本来乗る予定の新幹線の時間に起きた。
これは終わったと確信した。
もう距離的にはただの遅刻では済まないから絶望だった…。
私は寝坊したと思った瞬間に絶対にマネージャーさんに電話するのだが、
名古屋にいるマネージャーさんからしたら時差がある。
私は新幹線に居なきゃいけない時間だが、
マネージャーさんからしたらまだ家にいるレベル。
私のパニックとは裏腹に「わかったから落ち着け」と冷静だった。今思い返すと面白い。
一瞬、諦めて名古屋に行くのをやめようかとも思ったが、
その日のメンバーに選ばれてる時点でみんなに私の存在は知られていて、
このまま行かなかったらむしろ犯した罪は重くなる。
なんなら勢いで今マネージャーに電話してる時点で逃げられない。
私の中の悪魔の思考は、
「寝坊した時に電話しなきゃ逃げられたかもしれないのに…」と思わせてくる。
「でも反射で電話しちゃうのが私の真面目な良いところだよね」と
天使の思考で落ち着く。
とりあえず最速で乗れる新幹線に飛び乗った。
マネージャーさんに事情を伝えると、
メイクを順番にするなどの都合で元々2時間のゆとりがあるとのことで、
新幹線でメイクを済ませてくれたら大丈夫とのことだった。
なんならいつもよりのんびりメイクできたし、現場に向かうと余裕で間に合ったのだった。
グループアイドルは基本的に人数が多いので拘束時間が長いのはマイナスだったが、
こんな時には大いに助けられた。
大人数グループ最高!!!
ま、大人数グループだったから許されていた……というか免れた側面も……。
時間が長いのは芸能仕事特有なのかな?
始まり時間はきっちり決まっているけど、終わり時間はほぼ決まってない。
個人事業主だから残業というものは存在しないので残業手当はない。
手当あったらすごいだろうなと思う…。
アイドルは毎日いろんなお仕事ができるのも醍醐味。
その中でもグラビアは特殊で楽しかった。
だって“綺麗に写真を撮ってもらう”ことがお仕事だったから。
現場までのロケバスは爆睡し、
着いたらメイクをしてもらい、衣装も用意してもらえてるので、
ここまでで私がすることは唯一朝ごはんを食べること。
準備が終わればいよいよお仕事開始。
カメラマンさんが写真を撮ってくれるので、
私は綺麗に撮ってもらえるようにポーズを頑張る。
写真を撮り終わったらお仕事は終了。
ちょうどお昼過ぎくらいに終わるのでお昼ご飯を食べて、
帰りのロケバスでまた爆睡する。
私がこの日自分の意思で歩いたのは、ご飯を食べに行く時と撮影の時だけ。
ここまで聞いたらさ、大変そうには思えないよね。
楽しそうだよね。
でも逆にアイドルだから許されない?逃げられない?って場面もあるわけで。
極寒の1月、真冬の海で水着撮影なんてことがあった。
厚着してても寒いのにさ、みんなダウンコート着てんのにさ、私だけ水着でさ。
グラビア本格的に始める一発目の時だったから、冬なのに外で撮影なんて“ありえない”って思ったよね。
「どうやったらこの撮影やめさせられるか」めちゃくちゃ考えたけど無理なのよね。
だから嫌々やったの覚えてる。
ただ、このおかげで私は真冬の辛い状況の方が結構いい顔できるって知れたの。
それからは自ら冬の外での撮影好んでやるようになった。
達成感もすごいし、チームワークも生まれるんだよね。
辛いけど結果が伴うから結局私にとっては良い思い出に。
アイドルの時は“アイドルって意外と大変なんだよ”って思って生きてきたけど。
今の私が思うのは、
大変なことは多いけど1日単位で結果を得られる稀な職業なんだよね、アイドルって。
そして人生の10分の1くらいの儚い時間での出来事なんだよね。
毎日朝早く起きてメイクして会社に行ったり、満員電車乗ったり、残業したり、
それを普通としている人たちの凄さとアイドルの凄さはまた違ったものだね。
アイドル時代に許された私はこれから、
日々会社で働いてる人たちのタイムスケジュールに変わっていけるのかな……
尊敬しつつも不安しかない。
(プロフィール)
おおば みな
1992年4月3日生まれ、神奈川県出身。
2009年、9期生としてAKB48に加入。2014年、SKE48へ完全移籍。2022年5月にグループを卒業し、現在は女優・タレントとして活躍中。13年間のアイドル活動を自身の筆で赤裸々に書き下ろした『大場美奈フォトエッセイ 器用じゃないけど。』が絶賛発売中。